ぼくのねがいごと(3)
2009/11/26 Thu 09:46
どうして2人ともそんな言葉しか口にできないんだろう。
好きな人の言葉はちゃんと聞かなきゃだめだよ。
好きな人にはちゃんと言葉で伝えなきゃだけだよ。
僕は話したくたって話せないんだ。
2人ともそれができないわけじゃないだろ?
やっと出会えた人なのに手放したりなんかしちゃだめだ。
そんな僕の思いもむなしく、ある事件を境に
シンはチェギョンの手を離してしまった。
そしてチェギョンも、自分の中の不安には勝てずに、
言ってはいけないことを言ってしまった。
2人の仲は壊れてしまった。
そして宮の存続の危機・・・
神様は意地悪だ。
まだ高校生のシンにこんなにも意地悪をしなくてもいいのに。
「こんなこと誰も教えてくれなかった・・・」
シンは僕を横に座らせ暗闇で泣いていた。
チェギョンにもらった手書きのシューズを履き、
ずっと泣いていた。
僕はシンのことをよく知っていたつもりだったけれど
それは思い上がりだったのかも知れない。
シンは僕が思っていたよりもずっと深く
チェギョンを愛してしまっていたんだ。
初めて出会った大切な人が、するりとすり抜けていく。
何でも持っている皇太子だと思っていたのに
一番欲しいものは手に入れられないでいる。
この前、暗室から笑顔のチェギョンがいっぱい見えたんだ。
こぼれるような笑顔で現像してたのはついこの間のことじゃないか。
なのに、どうしてそんなに切ない顔でそれを見るんだよ。
そんな顔、僕は知らない。
でも、シン。
まだ終わったわけじゃないんだ。
君は一国の皇太子。完璧でかっこいい男なんだろう?
素直になってみろよ。
僕の大好きなご主人である相棒は、今人生のどん底にいた。
放火犯という濡れ衣を着せられ、愛する人まで手放しそうなんだ。
今までのシンだったら何の期待もなく全てを受け入れていただろうな。
でも、今は違うだろ?
新しい世界を一緒に見られる人が見つかったんだ。
チェギョン、お願いだ。
シンは本当は優しくて温かい男なんだよ。
そばにいてあげて。
こんなこと頼めるのはチェギョンしかいないんだ!!
その時。
僕には特殊能力があるのかも知れないと思った。
気持ちが。
僕の気持ちがチェギョンに届いたんだ。
「そばにいろと言って」
自分を突き放すシンから目をそらさず、
涙を溜めながらチェギョンは言った。
なかなか素直になれないシンに、
僕はテディベアのプライドをかけて念を送った。
今だ。今しかないよ ―
「そばにいろ。ひとりにするな」
テディベア人生10余年・・・僕の祈りは形になった。
シンはチェギョンを抱きしめ2人は見つめ合った。
ああ、良かったよ、良かったよ。
もうその手を離すんじゃないぞ。
まったく世話のかかる2人だなあ。
・・・って。
ん?
おい、おい、ここで何をしてるんだよっ。
え、あれ?
ちょっと、僕には刺激が・・・
・・・・・・。
落ち着けアルフレッド。
ずっと好き合っていた2人がようやく分かり合ったんだ。
僕は見ないフリをしておいてあげるから。
だからどうぞ、好きに続けるといいよ・・・
*******
せっかく思いが通じ合っても一件落着にはならないものだ。
シンの無実は証明されたものの、
シンとチェギョンは離れ離れになった。
チェギョンは自分の過ちを償うためにマカオに
そしてシンは宮に残り、別々の道を歩くことになったのだ。
その期限はどれくらいになるかもわからず、
最悪の場合、2人は永遠に引き離されたままになる、
それほど重い処分だった。
僕はマカオに来ていた。
ここに来る前、とある夜にシンがチェギョンに
僕を渡したんだ。
「アルフレッドはおまえに預けるよ」
「・・・どうして?シンくんの親友でしょ?」
「ああ。だから、おまえを見てもらわないとな」
「え・・・?」
「俺の代わりだ。連れて行け」
「でも、シンくんが・・・」
「俺はいいんだ。また・・・会えるだろ?」
シンがそう言うと、チェギョンはボロボロと大粒の涙を落とし、
そしてシンはそのままチェギョンを抱きしめていた。
僕はシンとチェギョンに挟まれてぎゅーっと潰されていたけれど
そんなことより、もっと胸の奥が痛かったんだ。
親友の頼みだ。
聞いてやろうじゃないか。
シンの代わりにチェギョンをずっと見ていてやるよ。
マカオでチェギョンは一生懸命勉強をし、
そして外国の文化に触れて、さらに感受性が豊かになったようだ。
いろいろな人たちと仲良くなり、友達と一緒に笑うこともあった。
一緒に来ていたチェ尚宮はそんなチェギョンを見て安心したようだけど
チェギョンは毎晩、決まった時間に泣いていたんだ。
僕を横に座らせて、シンの写真を何も言わずに見つめていた。
周りに心配かけまいと、何事もなかったように振舞うチェギョンが
とても辛くて悲しくて・・・だけど僕は話を聞くことしかできない。
数ヶ月過ぎると、チェ尚宮もそんなチェギョンに気がついたようで
それでも知らない振りをしながら、チェギョンに接していた。
「ねぇ、アルフレッド。シンくんはちゃんと皇子様してるかな?
変わらず、国民の憧れとして、かっこよく生きてるかな?」
ある日、チェギョンはそう呟くと
ベッドに突っ伏してわんわん泣いた。
大丈夫だよ、チェギョン。
シンはちゃんと君を迎えに来てくれるよ。
僕はチェギョンにそう叫び続けた。
だって僕の親友だよ。そうするに決まってるじゃないか!
届かなくたっていい。僕は叫ばずにいられなかった。
*******
「アルフレッド、行ってくるね!」
チェギョンは僕の頭を撫でて、元気に図書館に出かけて行った。
今日は天気がいいから、自転車も気持ちが良さそうだよ。
僕はふかふかのベッドの上で、チェギョンの帰りを待つことにした。
確か今日は帰りが早い日だったな・・・
それまでの間、ちょっとだけ休むことにしよう。
僕はウトウトと昼寝の体制に入った ―
しまった!!
ちょっとしか寝ていないと思ったら、外はもう真っ暗だ!
しかも、チェギョンが帰って来ていないぞっ。
おっちょこちょいな彼女だから自転車で転んだりしてないかな・・・
まさか誘拐とか!?
僕はドキドキしながらチェギョンの帰りを待っていた。
カチャリ
控えめに扉を開く音が聞こえ、
「ただいま」とチェギョンが小さく言った。
どうしたんだよー、遅かったじゃないか!心配しただろっ。
チェギョンに何かあったら、僕はシンに何て言えば・・・
「シンくんが来たの・・・アルフレッド、どうしよう」
チェギョンの呟きに僕は驚きのあまり、頭が真っ白になった。
「でね・・・本当の結婚をしようって言ってくれたの」
本当か!?チェギョン、良かったじゃないか!
何でそんな顔をしてるんだよっ。
「・・・私がそばにいてシンくんは大丈夫なのかな?
私のせいで、皇太子じゃなくなっちゃったんだよ・・・?」
チェギョンはそう言って僕を抱きしめた。
そうか、チェギョン。
君もシンと一緒なんだ。
相手を想うあまり、自分の気持ちを見失っちゃうんだ。
僕はチェギョンの胸に抱かれながら、シンのことを想った。
チェギョンの様子を見ると、シンだって今頃
落ち込んでいることが予想される。
チェギョン。僕は長年シンのそばにいたんだ。
だから迷わないで、大丈夫だよ。
チェギョンは指輪が入った箱をゆっくりと開き、
そしてシンの写真を見ていた。
どのくらいの時間、そうしていたんだろう。
チェギョンはもう一度僕を見ると、
優しく笑って頭を撫でてくれた。
「アルフレッド。私、シンくんがいない人生なんて考えられないよ」
もしも僕が言葉を話すことができたなら、「大丈夫だ」と背中を押してあげたい。
もしも僕の腕が動くのなら、そっと抱きしめてあげたい。
でも、シン。
それは親友の役目じゃないんだ。
君の役目だよ。

ぼくのねがいごと(2)
2009/11/24 Tue 12:17
無駄のない洗練された静かな空間に突然嵐がやって来た。
「部屋にお風呂があるっ!キャー、かわいいー!!」
落ち着きのない女の子は部屋に置かれた調度品を見ながら
歓声をあげていた。
周りの者たちの会話から察すると、この女の子がシンの許婚らしい。
みんながあまりにもひどい噂をしていたから
どんな顔かと思っていたけれど、何だ、なかなかカワイイじゃないか。
けれど、確かに品はないな。
チェ尚宮、心中お察しするよ・・・
急にやってきた女の子はチェギョンという名前らしい。
シンと同じ高校に通う、どこにでもいるような普通の女の子だ。
庶民の中の庶民がどうして皇室にお嫁に来ることになったのか
僕にはよくわからなかったけれど、
シンはこの日からとてもイラつくことが多くなった。
小さい頃からシンの周りには大人がいっぱいいた。
けれどもほとんどの者はシンに気を遣って顔色をうかがってばかり。
だれも本音で接する人はいなかったんだ。
なのに、チェギョンは違った。
シンに向って、心底嫌そうな顔をしながら「王子病!!」と
喰ってかかっていた。
おもしろい子だな。
僕はそう思っていたけれど、シンはそうじゃなかったらしい。
確かに静かな生活を望むシンには騒音でしかならず
チェギョンの失敗や失態は自分にも降りかかってくるからだ。
結婚の儀式の前日、シンはヘトヘトに疲れた顔で僕に言った。
「疲れたよ、アルフレッド・・・」
どんな時も弱音を吐かないシンがポツリと言った。
けれども、僕は久しぶりに見たんだ。
シンの作られていない崩れた表情を ―
*******
僕には人間のルールがよくわからないけれど、
シンとチェギョンはとても夫婦には見えなかった。
とにかく相手が気に入らないらしく、大した会話もしていない。
たまにおしゃべりをしているかと思いきや、
シンがチェギョンに意地悪をして激しく怒らせていた。
僕はシンの幸せを願ってから久しいけれど、この展開は予想外だ。
幸せになるどころか、シンのストレスは日に日に増していくようだ。
シンはチェギョンの前で元カノにまで電話をしてみせた。
それはさすがにデリカシーがないのではないかと僕も困惑したけれど
シンはさほどに気もしていないようだ。
わからない。
この2人はさっぱりわからない。
シンのことは何でもわかっていたつもりでいたけれど
僕はだんだんシンのことがわからなくなって、体調さえも悪くなってきた。
なんか体がムズムズする。力が出ないのはきっとそのせいだ。
シンがそんな様子だから、チェギョンは東宮にいる間は
怒ってばかりいた。
「性格のいい私とキミとで何とかしようね」
ある時、チェギョンは怒りながらも僕にそう言った。
そしてほつれていたおしりをあっと言う間に治してくれたんだ。
お!何だか体調も良くなってきたぞ。
ムズムズの原因はそれだったのか!!
手術を終えた僕をシンに渡したチェギョンは「ご苦労」と言われ
激高した。
「こういう時は“ありがとう”って言うのよ!」
今まで誰もそんなことをシンに言う者はいなかったのに
チェギョンは呆れるようにそう言い放った。
シンはそれにえらく驚いていたようだけど、
確かにチェギョンの言うとおりだ。
プリプリとチェギョンはシンに怒っていた。
けれども僕はある時気がついた。
チェギョンが切な気にシンの背中を見つめていたんだ。
こ、これは・・・そういうことなのか?
僕は胸をドキドキさせながらシンを見たけれど
シンの態度は相変わらずだ。
みんなはチェギョンのことをいろいろ言うけれど
僕は彼女が好きだった。
だから僕はその日に窓から見えた流れ星に願ったんだ。
どうか、シンが彼女の思いに気がつきますように・・・と。
*******
夜遅くに帰ってきたシンは部屋に電気もつけないで
僕を膝の上に置いた。
積み上げられたプレゼントの山。
今日はシンの誕生日パーティーを済州島でしたんだったよな。
それなのに、シンは黙ったまま一点を見つめ黙っている。
僕が不思議に思っていると、シンは箱から何かを取り出した。
靴?
複雑な模様が描かれたシューズをシンはじっと見つめていた。
「わからない。何なんだろうな・・・」
シンはそう僕に話しかけていたけれど、
僕だってそんなことは知らない。
積み上げられたプレゼントはそのままに、
シンはその靴を大事そうに棚に置いた。
長い付き合いになるけれど、僕はこんなシンの顔を初めて見た。
とても切なくて、とても複雑な顔。
そしてこの日を境に僕はこんな顔のシンを
何度も見ることになったんだ。
*******
それがあるかどうかは置いておいて、僕は顎が外れるほど驚いた。
チェギョンの実家から帰ったシンは別人じゃないかと思うほど
せわしなかった。
よくわからない棒のようなものを振り落とすゲームを1人でやってみたり
奇妙なダンスらしきものを踊ってみたりしてた。
そしてチラチラとチェギョンの部屋を覗いている・・・
そうか。チェギョンの実家、楽しかったんだな。
相変わらず意地悪なことを言っているけれど、
意識しはじめたってことか。
「なあ、アルフレッド。俺は小さな世界しか知らなかったから
外にあるものがこんなにも温かいなんて、知らなかったんだな・・・」
僕も知らなかったよ。シンがそんな風に笑うことなんて。
大丈夫だよ。これから知っていけばいいじゃないか。
シンはやっぱりチェギョンに意地悪を言って何度も泣かせていたけれど
それでも僕にはわかるんだ。
自分の中に芽生えた恋心に戸惑って、それを落ち着かせるために
気持ちと反対の言葉を口にしちゃうんだろ?
でも、シン。
僕は君と付き合いが長いからわかるけれど、
それじゃあチェギョンにはわからないよ。
いつもシンを心配して、切ない気持ちで背中を見つめる彼女は気づかないよ。
僕はチェギョンに作ってもらった洋服があまりにも心地よくて
長年のご主人様よりチェギョンに肩入れをしてしまった。
そんな風に僕が思っていることなど知らず、
2人は毎日ケンカばかりしていたけれど、海から帰ってきた日から
どうやらお互い心を開いて仲良しになったようだ。
撮影した写真をスクリーンに映し出し、楽しそうに2人で笑っている。
コン内官も嬉しそうだ。
僕だって嬉しい。
シンのこんな活き活きとした笑顔、何年ぶりに見たんだろう。
もう1人じゃないよ、シン。
チェギョンなら君を救ってくれるよ。
そう思っていたのに。
どうして神様は意地悪なんだろう。
本当に僕に特殊な能力がなくてごめんね。
言葉が話せたら。
文字が書けたら。
2人の誤解を解くことなんて朝飯前だったのに。
だから誤解が誤解を呼んで、2人がぐちゃぐちゃになってしまうことを
事前に防げなかった。
僕は特殊な能力はないけれど、エリートの中のエリート。
誇り高いテディベアだ。
だからちゃんとわかるんだよ。
シンとチェギョンはとっくに好き合っているってことを ―

ぼくのねがいごと(1)
2009/11/20 Fri 13:14
あれは15年くらい前の話。
エリートたちが集まるその部屋で仲間とお別れパーティーを開いた。
「おまえたち、すごいな。王室に行くんだろ?」
「同じ仲間として鼻が高いよ」
「室温も湿度も保たれた最高の場所で生活ができるんだぜ」
仲間たちは僕たちを羨ましがり、そして僕は誇らしげだった。
僕たちは明日、英国王室に連れて行かれることになっている。
1週間前、このテディベア工房で、厳重に選定された選抜メンバー。
僕はそのメンバーに入ることができた。
朝が来るまで僕たち仲間はたくさん話し合った。
かわいいお姫様と一緒に眠ることになるのか。
はたまた、高価な人形棚に並べられ、来客たちを迎える顔になるのか。
時間が来ると、仲間たちと別れた僕たちは英国王室へと旅立った。
そして数日が経ち、僕は女王様に抱かれ、
外国のお客様のいるパーティーに連れて行かれた。
そこで僕は優しそうなおじいさんの手の中に収められた。
英国王室でのんびり同期たちと過ごすと思っていたのに
僕はひとり知らない国へと渡ったんだ。
*******
数日後、僕は男の子と出会った。
美しい黒い目をした男の子。
おじいさんは僕を男の子に手渡して言った。
「いいか、今日からこの子はおまえの友達だ」
男の子は僕を見ると嬉しそうに頷いた。
その美しい目がキラキラと輝くのを確認すると、
僕はとても幸せな気持ちになれた。
僕の住む場所がイギリスから遠く離れた国であることを知ったのは
それからしばらく経ってからだった。
国は違えど、ここは宮と呼ばれる皇室であり、
男の子は“シン”という皇子様だった。
格調高い広々とした部屋は、僕にとって快適だったけれど、
日に日に、友達になったこの子のことが気になって仕方がなかった。
まだ小学校にもあがっていないのに、彼は広い部屋に一人だった。
整った顔に子どもらしさはなく、完璧な所作が却って痛々しくもあった。
「ねぇアルフレッド、何で他の子は外で遊んでいるのに
僕は部屋で勉強をしなければいけないのかな・・・?」
シンは僕に毎日話をしてきた。
天気の良い日曜日には「友達とサッカーがしたい」と呟いたり
眠れない夜は「お母様のところへ行きたい」と涙を流した。
高熱で苦しんでいる時でさえも、付き人たくさん来るのに
シンのパパもママも1度も来ることはなかった。
「さびしいよ」
シンはベッドの中で僕を抱きしめ、そう言った。
僕はそんなシンといつも一緒だった。
ここはとても条件のいい住まいだったけれど、
僕はシンの孤独をずっと見ている。
やがてシンは大きくなるにつれ、勉強や運動、そのほか複雑なことで
この部屋にいることも少なくなった。
それでもここに帰ってくると、シンはいつも悲しそうな顔で僕を見つめた。
そして年を重ねるごとにシンの顔から表情が消えたんだ。
小さかったシン皇子はどんどん背が高くなり、カッコよくなっていった。
モテないわけはなく、一般人からのファンレターは部屋に溢れかえっていた。
僕はその手紙にどんなことが書いてあるかとても興味があったのに
本人は何も感じないようで、触れることすらしない。
だから、ある程度日が経つと、誰かがその箱を
そっと持ち帰って行くことがいつものお決まりになっていた。
「早く大人になってここを出たい。
世界は広いのに俺の場所はここだけだ・・・」
とても星がきれいに輝く夜、シンは僕にそう言った。
その目はどこまでも悲しみに溢れてどこまでも深く輝く。
僕はエリート工房出身の誇り高いテディベア。
それが辛いと思う日なんて来ることはないと思っていたよ。
だけど、この日、思ったんだ。
僕はシンを救う力を持たないただのテディベア。
だから、誰か、シンを救ってあげてほしい。
シンを笑わせて欲しいんだ ―
*******
高校生になったシンは抜群なルックスと優秀な頭脳で
国で一番の人気者になっていた。
そしてそれと同時に何事にも諦めているように伺え、
誰に対しても冷ややかで温かみがなかった。
シンは僕を連れて、一人考え事をすることが多かった。
慕っていた姉上も海外へ旅立ってしまったため、
本音を打ち明けられるのは僕しかいなかったみたいだ。
それでもあの日、僕は一瞬、救いの光を感じた。
シンの秘密の部屋である現像室がちらりと見えたんだ。
部屋には現像した女の子の写真が干してある。
シンに美人の彼女ができたんだ!と僕は胸を躍らせた。
けれどもシンはずっと無表情だった。
僕にその女の子の話をすることもなく、
淡々と現像をしていただけだ。
おかしいよね。
彼女だったらもっと嬉しそうにするはずなのに・・・。
そして、特に以前と変わった様子もなく、
僕に1日の悲しみを打ち明けるのだ。
「早くここを出たい。宮なんて嫌いだ・・・」
無力の僕にシンはそう呟くと、また遠い目をして薄暗い空を見上げた。
そんな日々が続く中、宮の中が慌しくなった。
シンはすべてに投げやりになり、
周りが何を訊ねても適当な返事しかしない。
「まさか、本当に許婚が?」
「どこのお嬢様かと思えば庶民の中の庶民だと言うじゃない」
「写真見た?あんな娘と殿下が・・・」
部屋を清掃にきた者たちがヒソヒソと噂話をする。
そうか。
シンには許婚とやらがいたんだな。
で、その相手はどうやらシンに相応しくない相手だと・・・
僕はシンとずっと一緒にいたからわかるんだ。
クールで何の関心もないそぶりを見せているけれど、
本当は繊細で傷つきやすく、そしてとても優しい。
だからシンには笑ってほしい。
だからシンのお嫁さんは“あんな娘”なんかじゃダメなんだ!
騒動の夜、シンはいつものように僕を連れて
パビリオンのベンチに座った。
「俺、どうやら結婚するらしいぜ?」
シンは苦笑いをしながら僕を抱えると、ゆっくりと口を開く。
「俺は何のために生きてるんだろうな。
宮の存続のための操り人形としてあと何十年と生きなきゃいけないのか」
僕はシンの言葉を聞きながら、胸がぎゅっと締め付けられた。
シンは自分のことなのにいつも他人事で。
本当はたくさん傷ついているのに誰にもその悲しみを話さずに
こうしてひとりぼっちで膝を抱えているんだ。
「俺の人生であって俺の人生じゃないんだ。
だったら結婚相手なんてどうでもいい」
シンはそう言うと深いため息をついて僕を目の高さまで持ち上げると
小さく笑った。
「おまえだけが味方だ」
それはとてもきれいな三日月の夜で。
僕は無力さを嘆きながらも、シンの幸せを願ったんだ。

エリートたちが集まるその部屋で仲間とお別れパーティーを開いた。
「おまえたち、すごいな。王室に行くんだろ?」
「同じ仲間として鼻が高いよ」
「室温も湿度も保たれた最高の場所で生活ができるんだぜ」
仲間たちは僕たちを羨ましがり、そして僕は誇らしげだった。
僕たちは明日、英国王室に連れて行かれることになっている。
1週間前、このテディベア工房で、厳重に選定された選抜メンバー。
僕はそのメンバーに入ることができた。
朝が来るまで僕たち仲間はたくさん話し合った。
かわいいお姫様と一緒に眠ることになるのか。
はたまた、高価な人形棚に並べられ、来客たちを迎える顔になるのか。
時間が来ると、仲間たちと別れた僕たちは英国王室へと旅立った。
そして数日が経ち、僕は女王様に抱かれ、
外国のお客様のいるパーティーに連れて行かれた。
そこで僕は優しそうなおじいさんの手の中に収められた。
英国王室でのんびり同期たちと過ごすと思っていたのに
僕はひとり知らない国へと渡ったんだ。
*******
数日後、僕は男の子と出会った。
美しい黒い目をした男の子。
おじいさんは僕を男の子に手渡して言った。
「いいか、今日からこの子はおまえの友達だ」
男の子は僕を見ると嬉しそうに頷いた。
その美しい目がキラキラと輝くのを確認すると、
僕はとても幸せな気持ちになれた。
僕の住む場所がイギリスから遠く離れた国であることを知ったのは
それからしばらく経ってからだった。
国は違えど、ここは宮と呼ばれる皇室であり、
男の子は“シン”という皇子様だった。
格調高い広々とした部屋は、僕にとって快適だったけれど、
日に日に、友達になったこの子のことが気になって仕方がなかった。
まだ小学校にもあがっていないのに、彼は広い部屋に一人だった。
整った顔に子どもらしさはなく、完璧な所作が却って痛々しくもあった。
「ねぇアルフレッド、何で他の子は外で遊んでいるのに
僕は部屋で勉強をしなければいけないのかな・・・?」
シンは僕に毎日話をしてきた。
天気の良い日曜日には「友達とサッカーがしたい」と呟いたり
眠れない夜は「お母様のところへ行きたい」と涙を流した。
高熱で苦しんでいる時でさえも、付き人たくさん来るのに
シンのパパもママも1度も来ることはなかった。
「さびしいよ」
シンはベッドの中で僕を抱きしめ、そう言った。
僕はそんなシンといつも一緒だった。
ここはとても条件のいい住まいだったけれど、
僕はシンの孤独をずっと見ている。
やがてシンは大きくなるにつれ、勉強や運動、そのほか複雑なことで
この部屋にいることも少なくなった。
それでもここに帰ってくると、シンはいつも悲しそうな顔で僕を見つめた。
そして年を重ねるごとにシンの顔から表情が消えたんだ。
小さかったシン皇子はどんどん背が高くなり、カッコよくなっていった。
モテないわけはなく、一般人からのファンレターは部屋に溢れかえっていた。
僕はその手紙にどんなことが書いてあるかとても興味があったのに
本人は何も感じないようで、触れることすらしない。
だから、ある程度日が経つと、誰かがその箱を
そっと持ち帰って行くことがいつものお決まりになっていた。
「早く大人になってここを出たい。
世界は広いのに俺の場所はここだけだ・・・」
とても星がきれいに輝く夜、シンは僕にそう言った。
その目はどこまでも悲しみに溢れてどこまでも深く輝く。
僕はエリート工房出身の誇り高いテディベア。
それが辛いと思う日なんて来ることはないと思っていたよ。
だけど、この日、思ったんだ。
僕はシンを救う力を持たないただのテディベア。
だから、誰か、シンを救ってあげてほしい。
シンを笑わせて欲しいんだ ―
*******
高校生になったシンは抜群なルックスと優秀な頭脳で
国で一番の人気者になっていた。
そしてそれと同時に何事にも諦めているように伺え、
誰に対しても冷ややかで温かみがなかった。
シンは僕を連れて、一人考え事をすることが多かった。
慕っていた姉上も海外へ旅立ってしまったため、
本音を打ち明けられるのは僕しかいなかったみたいだ。
それでもあの日、僕は一瞬、救いの光を感じた。
シンの秘密の部屋である現像室がちらりと見えたんだ。
部屋には現像した女の子の写真が干してある。
シンに美人の彼女ができたんだ!と僕は胸を躍らせた。
けれどもシンはずっと無表情だった。
僕にその女の子の話をすることもなく、
淡々と現像をしていただけだ。
おかしいよね。
彼女だったらもっと嬉しそうにするはずなのに・・・。
そして、特に以前と変わった様子もなく、
僕に1日の悲しみを打ち明けるのだ。
「早くここを出たい。宮なんて嫌いだ・・・」
無力の僕にシンはそう呟くと、また遠い目をして薄暗い空を見上げた。
そんな日々が続く中、宮の中が慌しくなった。
シンはすべてに投げやりになり、
周りが何を訊ねても適当な返事しかしない。
「まさか、本当に許婚が?」
「どこのお嬢様かと思えば庶民の中の庶民だと言うじゃない」
「写真見た?あんな娘と殿下が・・・」
部屋を清掃にきた者たちがヒソヒソと噂話をする。
そうか。
シンには許婚とやらがいたんだな。
で、その相手はどうやらシンに相応しくない相手だと・・・
僕はシンとずっと一緒にいたからわかるんだ。
クールで何の関心もないそぶりを見せているけれど、
本当は繊細で傷つきやすく、そしてとても優しい。
だからシンには笑ってほしい。
だからシンのお嫁さんは“あんな娘”なんかじゃダメなんだ!
騒動の夜、シンはいつものように僕を連れて
パビリオンのベンチに座った。
「俺、どうやら結婚するらしいぜ?」
シンは苦笑いをしながら僕を抱えると、ゆっくりと口を開く。
「俺は何のために生きてるんだろうな。
宮の存続のための操り人形としてあと何十年と生きなきゃいけないのか」
僕はシンの言葉を聞きながら、胸がぎゅっと締め付けられた。
シンは自分のことなのにいつも他人事で。
本当はたくさん傷ついているのに誰にもその悲しみを話さずに
こうしてひとりぼっちで膝を抱えているんだ。
「俺の人生であって俺の人生じゃないんだ。
だったら結婚相手なんてどうでもいい」
シンはそう言うと深いため息をついて僕を目の高さまで持ち上げると
小さく笑った。
「おまえだけが味方だ」
それはとてもきれいな三日月の夜で。
僕は無力さを嘆きながらも、シンの幸せを願ったんだ。

おしらせ
2009/11/20 Fri 13:09
いつも「妄想の間」にお越しくださり、ありがとうございます。
本日より「ぼくのねがいごと」(全4話)を連載いたします。
幸せに暮らすシンチェですが過去にはいろいろありました。
そんな過去を振り返るお話です。
通常のお話とは少し毛色が違いますが
お付き合いいただけると嬉しいです。
しばらくバタバタするので毎日更新はありません。
まったりと覗きにいらしてくださいね。
kaho
本日より「ぼくのねがいごと」(全4話)を連載いたします。
幸せに暮らすシンチェですが過去にはいろいろありました。
そんな過去を振り返るお話です。
通常のお話とは少し毛色が違いますが
お付き合いいただけると嬉しいです。
しばらくバタバタするので毎日更新はありません。
まったりと覗きにいらしてくださいね。
kaho
アヒルノセカイ(8)
2009/11/06 Fri 09:56
携帯電話の画面いっぱいに広がるエッフェル塔に
あいつは必要以上に感激した。
「キャー、素敵っ。しかもこのアングル最高!
さすがカン・イン、センスがいいわ!!」
“任務完了!ただいま、一人旅を満喫中”
インから届いた1通のメール。
青空の下にそびえたつエッフェル塔の写真の下には
それだけが書かれていた。
たった1行だけれど、俺にはわかった。
インが忘れていたもの。取り戻したもの。
そして今、前を向いて新しい世界へ歩いていること。
インが俺を理解しているように
俺がインを理解できたことが嬉しかった。
「フランスはファッションの街よ。行ってみたいなあ」
「ジャージでか?」
からかうようにあいつを見ると、「しつこいんだから」と
不服そうな顔で反撃してきた。
そういえば、読書をしているくせに居眠りもせずに
あいつはやけに熱心だった。
珍しいこともあるものだと、背後にまわり、覗き込んで口を開ける。
あいつは少女まんがを読んでいた。
「おとなしく読んでいると思ったら・・・」
「すごく切ないのー。2人とも好きなくせに意地っぱりでさー」
少しだけ嫌味を言ったつもりだったのに、
あいつは都合の良いように俺の言葉を解釈し、
眩暈がするような恋愛物語の説明をしはじめた。
「随分、余裕のようだが、
明日の園遊会に関係する予習は済んだのか?」
「この巻までは読ませてよ。
次はガンヒョンにまわさないといけないから!」
持っている漫画から目を離さずにあいつが言う。
次は・・・って、おまえの友達から借りたものではないのか?
「誰に借りたんだよ」
「うん、ミンギ先輩」
さらりと言ったあいつの言葉に俺は開いた口を閉じることを忘れた。
「今、何と?」
「ミンギ先輩から借りたのー。
難しい法律の本ばかりじゃなくてこんなのも読んでるなんて
先輩がモテるの、よくわかるよね」
あいつはそう言うと、俺が近くにいることも忘れて
謎の世界にのめり込んでいった。
カン・ミンギがこんなくだらない少女まんがを読む習慣があったとに
驚くと同時に、自分にはさっぱりわからないこの世界を不思議に思った。
確かに。
カン・ミンギは俺もインもわからなかった問題を
あっさりと答えて、わかりやすく教えてまでくれた。
女ゴコロがわからない俺と
女ゴコロがわかるあの男と ―
「あー、面白かった!続きが気になるっ」
あいつはそう叫ぶと、テーブルの上のチョコレートをつまみ、
甘そうなミルクティをそれは幸せそうに飲んだ。
「・・・おまえ、ダイエットしてたんじゃなかったのかよ」
「ああ、あれ、終わった」
あいつはさらりとそう答えると、踵を鳴らし、勉強部屋へと戻って行く。
やっぱり俺には女ゴコロがさっぱりわからない。
テーブルに置かれた少女まんがにそっと目を遣る。
この中には俺の知らないことがたくさん詰まっているのだろうか・・・
恐る恐る、それに手を伸ばしてみたところで、体がビクついた。
あいつが戻ってくる音が聞こえたのだ。
「いけない、いけない、忘れてたよ」
あいつは俺の近くにあるその不思議な冊子を手に取ると
またもや理解不能な鼻歌を披露しながら去って行った。
シンプルで明快だった俺の世界はすっかり崩壊され、
理解不能の物質があれこれをまき散らかされている。
俺はただぼんやりと。
その原因である彼女の背中を見送った。
*******
「カン・テウ弁護士より、お預かりいたしました」
コン内官が運んできた包みをあけると、
淡い色彩の1枚の絵が現れた。
明るい日差しが差し込むような優しい色彩。
温かそうな水面の上にはアヒルのおもちゃが浮かんでいる。
「・・・これは?」
「ご存知の通り、カン・ミンギさんは大学で美術部の部長でいらっしゃり、
この学園祭の展示コーナーでこちらを掲示されたいと」
「あいつの作品だな・・・」
「さようでございます。ガンヒョンさんのお付き合いで描かれ、
公表するつもりはなかったようなのですが、
カン・ミンギさんの方から、ぜひとも、と」
あいつの絵は何度も見てきていたけれど、確かにこの絵は印象深い。
それにしても・・・どう考えてもこれはバスルームに浮かぶアヒルだ。
「展示テーマはあるのですか?」
もう一度その絵を凝視しながらコン内官に問う。
「“至福の世界”と聞きました」
“至福の世界”
あいつにとってそれが、バスタイムの時間ということか。
カン・ミンギがこれを見て何を思ったかは知る由もないが
わざわざ展示依頼をかけてきたくらいだ。
あいつの気持ちを感じたのだろう。
「わかりました。掲示だけであれば、特に問題はないでしょう」
「承知いたしました」
執務室からコン内官が出て行くのを確認すると
横にある棚にあった瓶に手を伸ばした。
2人で一緒に選んだバスソルト。
俺にもちょうどいい爽やかな香りだ。
体を伸ばし、向かいに見えるあいつの背中を見た。
今夜は俺から声をかけるか。
バスタブに浮かぶアヒルは真っ直ぐにしか進まない。
それは奇妙な音で。
ものすごく遅い速度で。
それでも何故か癒されてしまう。
俺の世界にはなかった不釣合いなあの場所で、
あいつが夢中で読んでいる、“ありえない夢物語”について
今日はうんと聞いてやろう。
パソコンを落とし、ノブに手をかけると
同じタイミングで、あいつも部屋を出るところだった。
「お風呂のアヒル、今日は日光浴させてたの」
あいつは乾かしていたアヒルを持ち上げて笑った。
*******
インの土産はフランス映画のDVDだった。
わずかな制作費で異例のヒットを記録したこの映画を一度観てみたいと
俺が言ったのをインが覚えていてくれたのだ。
何となく俺の付き合いで一緒にそれを見ていたあいつがあくびをする。
フランス映画特有のけだるい進行と、あいつにとっては宇宙語にも感じる
理解のできない言葉が原因だろう。
もう少し観ていたいと思ったけれど、
眠気と戦い奇妙な揺れ方をする横の生物が気になって仕方がない。
俺はDVDの停止ボタンを押し、落ちる3秒前のこいつの背中を叩いた。
「もう寝るか?」
「・・・あ、うん。映画は?」
「また今度観るよ」
俺がそう言うと、あいつはもう一度あくびをして
ゆっくり立ち上がった。
「あ、ガンヒョンから聞いたよ。
私の絵・・・学園祭で展示されてたって」
「ああ、作品だけは学園祭に参加できたな」
「知ってたなら教えてくれてもいいのに」
「・・・それを理由に行きたいって言うだろ?」
俺の言葉にあいつは恨めしそうに視線をあげた。
ああ、もういいさ。
そういう不満は全部俺にぶつければいい。
いつだって悪役になってやるよ。
ブツブツと文句を言いながら寝室に向うあいつに小さく笑うと
俺は1枚の封筒をあいつに差し出した。
「インからだ。昨日、学園祭でおまえの友達の
タロットコーナーに行ったらしい」
「本当!?」
帰国したインがフランス土産と一緒に渡していた1通の封筒。
それはあいつが行きたがっていたタロット占いカフェの結果だった。
アドバイスのお礼だと言うその言葉を理解せずにいる俺に
インは「いつかわかるさ」と笑ってみせた。
「うわっ。来年はいい年になりそうだわー。えーっと・・・」
ベッドに座ったあいつはくるくると表情を変えながら
それを読んでいた。
ところが、初めははしゃぐように笑っていたのに
その表情は段々と深刻に変化し、どんよりと曇り始める。
悪い結果でも出ていたのだろうか。
俺はやれやれと息を吐いて、あいつの隣に座った。
「占いなんて気にするな。あんなもの所詮、適当・・・」
慰めの言葉をかけている途中で、あいつが恥ずかしそうに俯き
その紙を俺に渡す。
何が起きているのかさっぱりわからず、それを受け取ると
その結果に目を通した。
・・・・・・。
そうか。
そういうことか。
こんなことまでタロットカードとやらは
占ってくれるのか。
「俺たち、相性がいいんだな」
俺がにやりと笑うと、あいつがアヒルのような口をしながら
顔をあげた。
俺は優しい夫だから、妻の愛は全力で受け止めないとな。
せっかくのインからの“お礼”なんだから。
バスルームに浮かぶアヒルのおもちゃ。
目の前でそんな顔をするアヒル姫。
それは、いつのまにか、俺の日常になじんだ愛すべき存在。
「だから、言っただろう?浮気をする理由は皆無だ」
不敵な笑みに危険を感じ、身を退かせたあいつをがっちりと捕獲して
そのまま勢いよく押し倒した。
占いも少しは信じてみるか。
女ゴコロとやらを知るために。

そういえば、あの日見た成績表の音楽の数字も
3年間ずっとアヒルのような形をしていた。
<おわり>
:::あとがき:::
山場がありそうで、まったりとしたまま終わったアヒルノセカイ。
この話はずっと書きたいと思いながらも先送りにしていたネタでした。
殿下の3人の友人の中で一番まともそうなのに、幸薄そうなインくん。
彼に、新しく前を向いて歩いて欲しいなと常々思っていたのですが
ようやくそれができそうな感じです。
他人に興味がなかった殿下もアヒル妃のおかげで
いろいろなことが見えてきたようです。
言葉足らずの一言を理解してくれる親友、
そして勝手にライバル視している先輩・・・
将来、皇帝として孤独を味わうこともあるであろう殿下には
かけがえのない大切な仲間であることがわかったことでしょう。
未だにわからない女ゴコロ。
少しはわかって欲しいけれど、わからないのが殿下。
でも、それは妻がそばにいれば大丈夫ですね♪
アヒルのおもちゃは後ろには進みません。
まっすぐ前を向いて、2人の世界を築いてほしいです。
最後までおつきあいくださり、ありがとうございました。
みなさまにも素敵なときめきが訪れますようにxxx
kaho








